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「特別な“何か”に頼らない地域振興」にぎやかな過疎の町・美波町まちづくりの本音(後編)

  • 2020/5/22

「にぎやかそ〜にぎやかな過疎の町 美波町〜」をまちづくりのキャッチフレーズに掲げ、人口減少社会の中にあっても町内外から人が集い活気あふれる町を目指す徳島県海部郡美波町。前回記事では、人口6,600人足らずのこの町がいかにして活気あるまちづくりを進めてこれたのか、自治体としての心構えをお聞きしました。連載2本目の本記事では、地方創生の要とも言われる「関係人口」や「安全安心な暮らし」について、その本音をお話しいただきます。

 

徳島県美波町 町長 :影治信良 氏
(株)あわえ代表取締役  / サイファー・テック(株)代表取締役:吉田基晴


 

「弊害」さえ少なければ、「挑戦」を積極的に受け入れる

 

 

 吉田:
今後、関係人口や民間組織の活用は、他の自治体でも必須となってくると思います。本当の意味で任せられないだとか、表面だけの付き合いになってしまわないためには信頼関係が必要になってきますが、関係を築いたり、保ったりという点で、町長はどんな努力をされていますか?

 

 影治町長:
実を言うと、特にないんだね(笑)
例えば美波町で、ある企業さんや誰かが「こんなことをしたい」と提案してきたとして、まず考えるのは「町民に迷惑をかけないか」「財政的な予算の支出がないか」の2点。どちらもないなら「はいどうぞ、ご自由に」となるのが現状の美波流で、そこには特に信頼関係は必要ないんだよね。

提案者について多少のリサーチすることもあるけれど、基本的にオファーがあったら断らないようにしてきていて、その積み重ねによって信頼関係が築けてきたというのがあるかもしれないね。何事も確実っていうのはないけど、そんなことを思いながらやってこれているよね。

 

 吉田:
先ほど出た4つの判断基準(前回記事参照)のお話に照らし合わせると、サテライトオフィス誘致デュアルスクールなんてまさに「あってもいいけどなくてもいい」なんですよね。

「デュアルスクールを経験した子どもたちがすごい確率で東大・京大に!」とか、目に見える「良い効果」や具体的な数値が出ていれば話は違いますが。海のものとも山のものともわからない、端的に言うと「良いか悪いかはわからないもの」を受け入れるわけじゃないですか。

サテライトオフィスもそうで、誘致開始から7年経った今でこそやってよかった、正解だったと言えるじゃないですか。振り返れば、成果が約束されていないものを積極的に受け入れている町ですよね。

 

影治町長:
僕の頭の中にはいつも財政のことがあって(笑)
デュアルスクールにしてもサテライトオフィス企業誘致にしても、そんなにずっと財政出動しなくちゃならないものではなかったのが大きいかな。財政面をはじめ、弊害さえ少なければ新しいことはやっていきたいと思っていたし、4つの判断以前に「これはいいものだ」と感覚的に思ったことでもあった。

町にとってリスクがあること、「失敗したら美波町の屋台骨がひっくり返る」みたいなことさえなければ、挑戦は積極的に受け入れていきたい。何事もやってみないと始まらないし、ダメだった結果から新しい世界が開けてくることもある。そこはどんどんやっていこうって。

 

町内に既にある、「SDGs的なこと」に目を向ける

 

 

影治町長:
SDGsも最初は全然わからないけど「いきましょう!」だったし、スーパーシティ構想も担当職員に「どうなの?」って聞いたら「いいですよ! 」って返事が返ってきたから「じゃあ、どんどんいったらいいんじゃないの!」って。結構、ノリだね(笑)

 

 吉田:
私としては、町には特にSDGsに取り組んでほしいですね。
例えば日和佐漁協では組合長を中心に、保護型の伊勢エビ漁に切り替えているんです。出漁日は減ったのに漁獲は増える、SDGs的というか「まさに持続可能なそれですわ!」というようなことが起こっています。彼らは自分たちのために努力しただけと言いますが、環境保護も経済活動も両立させたSDGsの事例として町ぐるみでPRするべきものだと思います。

 

影治町長:
本当にすごいよね。

 

 吉田:
一方で、どんなに素晴らしい取り組みをしていても、彼らは一漁業者でしかないためにSDGs認定を受けることができない。そこで町の出番です。町が主体となってSDGsを進めたりすると、いままでは伊勢エビ漁師さんと関係者だけにとってのメリットでしかなかったものがいきなり町全体のメリットになる。

こんな小さな町の日々の取り組みから、世界中にいい影響が与えられるようになるって素敵じゃないですか。町長がおっしゃった「それぞれができること、得意なことをやる」を徹底的にやれば、よりよい成果が出るんだろうなと。SDGsは町にしか、町長にしかできないことですよ。

 

影治町長:
対談中だけど、ちょっと置いといて。「それやろう!」。

 

 吉田:
世界で一番古いウミガメ保護の記録は美波町にある。赤松地区の人形浄瑠璃や由岐地区の津波の碑、その他の防災活動ひとつにしてもそうで、美波町には数え切れないほどのSDGs的な取り組みが脈々とある。それぞれが一所懸命やってきたことが、国連で生まれた新しい言葉によって評価されるっていいじゃないですか。

 

影治町長:
そうだね。たくさん素材はあるのに活かしきれていないことが本当に多い。世界共通の意識に変換できれば、言うことはないね。

 

「上質な関係人口」による「素敵な副作用」

 


 吉田:
町長に今ひとつおうかがいしたいのは、サテライトオフィス企業の人たちの動きと言いますか、町が個別にお願いしているわけでもないのに自発的にいろいろしてくださっている点。

以前に町長もびっくりされたとおっしゃていた消防団への入団などについてですね。サテライトオフィス誘致を開始した当初は想定もしなかったことが起こっているのを、あわえでは「素敵な副作用」と言っているのですが、町長はどのように捉えていますか。

 

 影治町長:
ありがたい。間違いなくありがたい。いろんな人が集まって、化学反応が起きて、新たな何かができるみたいな、そんなイメージを持っている。やっぱり人に恵まれているね。

技術を持っているうえに人間的にも素晴らしい人ばかりで、だから社会的にも貢献しようと地域の活動に参加してくれているんだろうなと。優れた技術と優れた人間性、その両方を併せ持つ人が来てくれていたがゆえに、このような結果になっている。

そして今また大きい時代の流れ「Society 5.0」にも美波町は乗ろうとしている。これほど最先端の技術が、身近で、社会実装もできる町って少ないんじゃないかな。いい人、いい環境、いい流れ。何もかもが美波町にとってすごく心地よい、いい風が吹いていると思うね。

 

 吉田: 
関係人口って、例えば伊勢エビが食べたいからふるさと納税をしてくれているような人から、何度も美波町の祭りに参加して移住直前みたいな人まで、本当に幅広いんですよね。だからあわえでは「小さい自治体ほど、数よりも質の高い関係人口をイメージしていくべきじゃないのか」と全国の基礎自治体さんにお話しています。

数ばかり追っても仕方ない。受け入れるのだってすごく大変ですからね。町長の言葉の通り、サテライトオフィス企業の方々は、心よし、行動力あり、かつ技術を持っている。フットワークも軽い彼らのような人材はどこにいるのかと言えば、やはり個人に近いベンチャー企業に多い。地方での「Society 5.0」実装を目指すとしたら、多少時間がかかるように見えても、実はサテライトオフィス誘致で土壌を作るのが近道なんじゃないかと考えています。

 

 

「安全安心」こそ、暮らしの土台

 

 吉田: 
美波町の地方創生は現在の方向性で進めていかれるのでしょう。それに加え、今後、自治体の課題としてよりクローズアップされるのが安全安心な暮らし、つまり防災やセキュリティだと私は思っています。この点についてはどうお考えですか。

 

影治町長:
安心に関しては、個々の主観に左右されるところも大きく、行政がゴールを決めるには難しい面もあると思っています。一方で、安全は行政が与えることができる。もちろん安全にもこれで十分というゴールはなく、対策であったり啓発であったり、常に工夫し続けていかなければならないとは考えている。

 

吉田:
美波町の防災に関しては古くからの取り組みに加え、サテライトオフィス企業のIoT技術を駆使した「止まらない通信網」、さらには今春から新しく防災情報アプリもある。しかしこれからの時代、より幅の広い安全安心が求められ、行政はそれに応える必要があるのではないでしょうか。

例えば、これまでの自然災害対策にサイバーセキュリティー対策も含めた総合的な防災対策ですね。美波町はICTやIoTへの関心も高く、取り組む土壌も十分にあると思いますが、町長はどのようにお考えですか。

 

影治町長:
先ほども話した通り、安全は行政がしっかり対策を講じて守っていかなければならない。ただ、どこまで行ったら安全といえるのか。
財政面との折り合いも含めて、その「程度」を決めるのが最も難しく、災害時については住民ひとりひとりの行動が頼りで、行政は補完していくしかないという現状でもある。

とは言いながら、東日本大震災当時から僕には「助かる命は助けたい」「助かった命はやはり守りたい」「関連死をなくしたい」という理念があって。その理念からみると、美波町では第一ステージというか、今できることはほぼできているんじゃないかとも思っている。特にハードの部分はね。

第2ステージとして次に進めていくのは、「助かった命をどう守っていくか」というところだけど、これについては住民の防災意識がとにかく高いからね。その点が後押ししてくれて案外スムーズにいくんじゃないかな。

住民の方々からの提案や協力の申し出などは、本当に誇らしいものがあるからね。町長としては町だけでは補いきれない部分を県や国に働きかけ、一緒に対策を進めていくというのも重要な仕事だと考えています。

 

吉田:
やはり防災対策、安全に関しては行政の責務が問われるところですよね。

 

影治町長:
防災は一番大事だと思っている基盤。僕もかつては子育てとか教育とか、福祉とかいろんな柱のうちのひとつだと思っていたけれど、東日本大震災を目の当たりにして、防災こそが土台だと考えを改めた。生きていく、暮らしていく土台だと。

防災対策を土台・根本にして、そこから健康に暮らしていけることなんかも考えていければいい。そうやって少しずつ幸せになれる道筋をつくっていくような、そんな新たな取り組みも今後の美波町はやっていく。

 

吉田:
これまでとは違う角度からの防災対策といったものでしょうか。

 

影治町長:
地域とか国で使われている言葉に「ゼロ予算」という考えがあるでしょう。それから、スマートシティやスーパーシティ構想。こういうのって、もちろん職員の旅費とか細かな経費は別として、たちまち大きな財政出動の必要はない。

美波町のような小さな町でも取り組みやすいし、複数の課題解決に使えるから職員一丸となってどんどんやっていこうと。先にも言ったけど、こういう新たなことに取り組んでいると、後ろから制度がついてくる。それはこれまでの地方創生の取り組みの中で経験しているし、先駆けている分、制度化された時にはノウハウもできているからね。

失敗しながらでも走っていたら、そのうち後ろから追い風、推進力が来る。必ず来る。そうしたらまた走れるじゃないか。だからまず走ろう、というイメージかな。

 

吉田:
ありがとうございます。
今回、町長のお話をうかがい、「町、行政は地方創生のプレイヤーではなく、伴走者でいいのかも」との思いが浮かびました。我々のような民間企業、そして住民がプレイヤーで、行政と協力しながら進めるのが地方創生なのかと。

 

 影治町長:
そうですね。
時々プレイヤーで、時々伴走者で、かな。お互いにね。同じ方向を目指して一緒に走っていれば、そこに大きな推進力が生まれると。僕はそう思っています。

 

 

まとめ

 

「地方創生」という言葉が世に出たのが2014年のこと。美波町では、既にその2年前に東京のITベンチャー「サイファー・テック株式会社」が進出し、同町初のサテライトオフィスを開設。働き方改革やワーケーション、地域課題の解決や関係人口創出などを先取りしたサテライトオフィス誘致が、すでに軌道に乗り始めていました。

「新たなことに取り組んでいると、後ろから制度がついてくる」と影治町長が語ってくださったように、その先駆的な挑戦はやがて制度化され、今や全国へと広がっています。

そんな美波町の挑戦の軌跡と成果を表現したまちづくりの指針「にぎやかそ」。影治町長はこの「にぎやかそ」に込めた故郷への思いを全国の過疎地域に伝えたいとおっしゃっていました。「結果」だけでなく「過程への向き合い方」も含めて、地方創生を目指す全ての人々にとって良きヒントとなるのではないでしょうか。

 

前編記事

 

【この記事の取材は2019年12月に行っています】

 


■自治体インタビューシリーズ

Vol.1(宮城県富谷市) : 「無邪気な興味と対話の継続に尽きる」富谷市まちづくりの本音
Vol.2(神奈川県真鶴町) : 「連鎖が起きる地域づくりを」官民連携を駆使した真鶴町まちづくりの本音

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