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執筆者の写真株式会社あわえ

【特別対談】小田切 徳美 教授と語る|農山漁村から見る地域と人の関わり方


左)明治大学農学部 小田切 徳美 教授、右)弊社代表 吉田

地方創生や地域づくりにおいて無数の手段が錯綜する中、特定の商品や特定の事業者・自治体のためだけではなく、社会にとって役立つ情報を社会提言すべく、政治や教育など様々なお立場の方との対談をお届けします。

初代地方創生担当大臣 衆議院議員の石破 茂 様との対談に続き、今回は全国の農山漁村再生の研究や中央省庁関連でも地域づくりに関わる様々なポストを歴任されている明治大学の小田切 徳美 様との対談です。地方創生がスタートする2014年よりも以前から、農山漁村再生を研究されている先生の知見や、今後の地域との関わり方の重要性をお聞きし、これからの取り組みのヒントを見つけたいと思います。

農山漁村再生への地方創生の関与

吉田「農村漁村再生や地域振興に長らく関わってこられた小田切先生に、地方創生、国策が農村漁村再生にもたらしたものを、良い面悪い面両方の観点からお話いただけますでしょうか。」

小田切教授「地方創生は、地方消滅論という議論から始まっています。人口動向からみれば、一部の地方は消滅してしまうというものです。そこで早々に地方創生本部が立ち上がり、法律ができ、地方創生の必要性が国民全体に急速に行きわたりました。しかし、ある種の副作用が生じました。それは、危機意識を煽ることが、却って地域によっては諦めを招いてしまったのです。どうせこの地域はなくなるのだ、もう何をやっても無駄だ、という諦めです。

一方で、危機意識が煽られたことから、地域の可能性を共有化するという方向に変わってきた傾向も生まれています。例えば、ある集落の中で、あそこの家の息子さんは定年になったのでもう来年帰ってくるのではないか、町のイベントによく顔を出したりする関係人口がいたり、いろいろ相談できる若い人ができてきたり・・・という話が集落の中で共有されるようになった。つまり北風をビュービュー吹かせて危機意識を煽るのではなく、その中で小さな事や可能性を評価しあって、一歩進めていこうという、太陽路線が少しずつ定着したのが良い面ですね。」

吉田「地域の可能性を共有するというのは重要な視点ですよね。人口減少については前から予測されていた話ですし。」

小田切教授「そうです。極端に言えば東京都さえも人口減少が予想されている中で、むしろ人口を増やすこと自体が変な話ですよね。そういう意味では、焦点は人口ではなく人材ですね。あとでも議論したいと思いますけど、あわえが取り組んでいる事は、人口ではなく人材を増やしているのだと思います。地域の中に人材を増やしていくことも、地方創生の最初のインパクトを経て、ようやく定着し始めてきたと思います。ある意味では、可能性を共有化するということと、人材を増やしていくことと、同じような側面がありますが、これが地方創生によってもたらされたプラスの面だと考えています。」

吉田「必ずしも危機意識だけで動いているのではなくて、元々持っている熱量やエネルギーで動いているなど地域によって違いがあるように感じるのですが、その辺り、全国の農山村に足を運ばれている先生から見て、どうお感じでしょうか。」

小田切教授「そこが最大の問題で、私は最近“むら・むら格差”という言葉を使っていますが、『全く動けない』という村は、実は活発に地域振興に取り組んでいる地域の近隣で発生しています。つまり、なんらかの地域性でまとまって元気なところが一帯にあるわけではなく、元気な集落もあるし元気でない集落も、それが併存してしまっているという状況が問題だと思います。その意味で、地域の内発的な熱量で地域を再生するという基本的な力はあるけど、しかしそれが十分掘り起こされてない地域もまだまだいっぱいあり、内発的な熱量をどう横展開するのかが、地方創生の最大の難点、最大の問題かもしれません。」

吉田「なかなか答えにくいところもあるかもしれないのですが、では、自らそういった内発的動きができなかった、今“むら・むら格差”が出てしまっている地域は、どうなっていくべきで、また国としてはどういう手を施すべきなのか、それはもう施す必要はないのか、もしお考えがあればお聞かせください。」

小田切教授「“むら・むら格差”が拡大してきたということを前提に、国は横展開という言葉をいよいよ政策の中に入れ始めてきました。そういう意味では、横展開の手法が、政策的な課題になり始めています。そこで私たちが、ようやく分かり始めてきたのは、横展開のためには、いささか極端な議論なのですが、必要なのはお金ではなくて、むしろ、もっと単純に事例集ではないかという話になっています。今までもたしかに事例集はあったのですが、事例集に書いていたことは何をしたのかということで、私たちは‘knowing what‘と言っています。ところが本当に知らなくちゃいけないのは、‘knowing how‘です。従来の事例集では、関係人口が増えた、というのはわかるが、具体的にどのようなアクションをしたのかまでは分からない事が多い。よし、地域に関係人口を創ろう!とした時に、最初に何をどのように実行したのか。美波町の伊座利地区では、伊座利出身の町外者に手紙を書いたそうです。このような第一歩のhowを横展開することが重要ではないかと思います。」

伊座利の未来を考える推進協議会の草野会長(左から2番目)と伊座利にて

関係人口論


吉田「『持続可能』や『SDGs』、日本に限らず世界中のキーワードの一つかなと思うのですけれども、この持続可能な地域づくりいう観点において、アプローチの一つとして関係人口を増やしていこうというのが、日本でのテーマであるように感じております。一方で、関係人口を創るのが目的になっているようにも感じています。実際のところ、関係人口の意味や意義、地域の持続可能性につながっていくというメカニズムの設計なしに『関係人口を集めよう!』『ワーケーションで旅費宿泊費全部出します!100人来ました!』で?みたいなお話も良く聞きます。そこで、その関係人口が地域づくりにどう寄与をしていくかというメカニズムを先生にお話しいただけませんでしょうか。」

小田切教授「関係人口という考え方は非常に重要です。この言葉が重視されてきたのは、地域づくりにとっては革命的なことだと思います。というのは住民をそこに居住しているということだけではなくて、関係性で把握するという考え方です。そういう意味では、住民は現にそこにいる人たちだけではなく、時々来る人、あるいは来なくても心を寄せている人、そういうのを含めて住民性があるという考え方です。

この関わりの階段で言うと、無関係の人々が移住にまで至る間にはいろんな段階があります。ここに表記している段階はあくまで一部で、この段階は人によって違うと思います。十人十色ですし、段階の数が、人によっては2段階の場合もあれば、すごく慎重な人にとっては20段という場合もありますね。そういうことも含めて、多様な階段があって、この階段をあたかも上るようにして最終的に移住に至るというものです。そのように考えると、関係人口の議論とは、この段差をいかに低くしていくか、それがより深い関わりにつながる。そして最終的には移住につながるものだ、ということが理解できます。そういう意味で、吉田社長が先ほど言った『ワーケーションで100人来ました!』という話も、ここに何人登ったというよりも、次の段階に何段登るのか、行動をアップグレードする人がどのぐらいいるのかが重要なポイントだと思います。」

吉田「10年ほど前に、美波町長とこれからの美波町づくりみたいなのをお話しさせていただいた時に、地方に行くとよく聞かれる『嫁に来い』とか、『移住して来い』、それは住民票を異動してというプレッシャーですよね。そういうものをタブーにして、美波町としてはその二者択一を迫る、強いるのではなく、個人の選択の2択・3択に入るような、そんな方針でいきませんかということで意気投合した経緯があります。そういう意味では、美波町って移住を増やす、企業誘致を増やすよりも、感覚的に関係人口づくりをやろうとしていたのだろうなとは思いますね。」

小田切教授「10年前に、既にそこに着眼されていたとは、大変驚きました。どうしてそんなに早くから気づいておられたのですか?」

吉田「私は10年前に美波町にサテライトオフィスを出しました。当時地方創生の取り組みが始まる前だったので、そのニュースを見たいろんな自治体さんが、うちにも来てくれうちにも来てくれるというようなお話いただいた時に、当たり前ですが、1つしかない私の身体を分けることはできません。そして、どう考えても人口の総量が減る時代に奪い合いをしても意味がない、と常々思っていました。ただ、つい言いたくなっちゃいますよね。嫁に来てほしい~、移住してほしい~というところで、グッとこらえていい関係を創る事にフォーカスした方が地域への共感も増幅されるのではと考えていましたね。」

小田切教授「吉田社長のおっしゃる通りで、移住しなくちゃダメという考え方も、自治体の現場に必ずしも合わないのではないかと思っています。移住を目的にしすぎると、最終的に移住しない関係人口は、『お前たち、何しに来たのだ』という差別を生みかねません。そうではなく、ここにいること自体尊いことである。地域に関わること自体が尊い事であり、それを関係人口本人も、あるいは地域住民の方々もお互いにリスペクトし合う事が必要だと思います。いずれにしても、こういう階段がなければ関係人口と移住がつながらないものであること。それと同時に、この階段の最終ゴールを意識し過ぎない方がいいこと。相反するようなことですが、2つとも重要なことだと思います。」

吉田「この関係人口図の中にある無関係人口についてですが、その町知りませんって、1700超える市町村があると、知らないのが普通かなと思います。その知るきっかけとしては、ふるさと納税も有効な手段というふうに捉えていいのでしょうか。」

小田切教授「ふるさと納税の仕組みづくりに、私も関わっていますが、まさにそう考えて制度設計なども提案しました。ただし、ふるさと納税はカタログショッピング的な展開も見られます。例えば牛肉が家に来た、家族で美味しくすき焼きを食べた。食べた瞬間、無関係人口に戻ってしまっている可能性がありますね。極端に言えば、一体どこに寄付したのか、そのことさえ忘れてしまう。そういう意味で、ふるさと納税自体は、今おっしゃっていただいたような『地域を知る一歩』としての意味がありますが、これをもう一段上に上げていく工夫が必要です。これはふるさと納税の関係人口論的運用と呼んでいますが、その部分がないと2000円の格安ショッピングの場を創っただけになってしまうと思いますね。」

吉田「私が少し気になっているのが、ふるさと納税の機能そのものを民間に完全に丸投げしてしまうケースがありますよね。適材適所的な感覚で言うと正しい面があるのですが、私が思うには、やっぱりその地域の強みである商品は何で、その強みをどう伝えるのか、そしてファンになってもらうのか。さらに商品のファンを通り越して地域のファンになってもらえるのか、と考えることこそ、地域の魅力発信の本丸の部分だと思います。民間企業であれば事業の本丸であって、この商品開発やマーケティング、顧客とのリレーションですね。外注をすれば短期的に売上が上がるかもしれません。公務員的に言うと楽になるかもしれないですが、決して外注してはいけないところではないかとも感じるのです。牛肉ファンから地域ファンになるところを委ねちゃうというのはちょっと危ないのではないかなと。」

小田切教授「本当にそうですよね。中には地域の産品の発掘さえも外注して任せてしまっている自治体もありますね。外注先が都市部の一定の企業に集中してしまうと、画一的なものになり、さらには写真さえも違う地域なのに同じじゃないか、そんな悪い冗談もあるくらいです。本当にもったいないですね。そこを地域の力によって、場合によっては関係人口を巻き込んで『外から見たら我が町の産品どう見えますか?』って聞きながら創ったりしてもいいですよね。そんなことに巻き込んで、関係自体を高めてもらう、そんなことも関わり代として考えられますよね。」

当事者意識

吉田「カウントできる人口というより人材というようなお話が出ましたが、どうしても今の狭義な地方創生が人口減少論の観点から、人口が増えないと、出生率が上がらないと、日本が困っちゃう議論になる傾向があると感じています。女性にとっては無言のプレッシャーを社会から受けている状況ではないかなと。むしろ人口減っても大丈夫だよね、出生率上がらないけど大丈夫だよね、という社会のほうが健全であり、そういう社会の在り方をみんなで知恵を出すという方が女性にとってもいいのではないかと思っています。今の日本は、出生率が低いのが大問題だと言い過ぎているかなと。それってやや息苦しい議論というか。先生が言及されたように、人口という数が本質ではないと思うのです。人が持つエネルギーを信じ、その人たちのエネルギーが都市だけ、地方だけではなく、双方で、そして各地で活動できる社会こそ、人材が活躍できる場ではないかと私なりに理解しているのですが、どうでしょうか。」

小田切教授「人材の定義っていうのは大変難しいのですが、私は非常にシンプルに、当事者意識を持つ人々だと考えています。当事者意識を持った人々が、しかも多様性を持ち、その多様性の交わりの中でエネルギーを出しながらワイワイガヤガヤやっていくっていう、これこそが人口減少の適応策だと思うのです。そのように考えると、出生率を上げなくちゃいけないとか、女性が活躍しなくちゃいけないとかではなく、女性を含めて、それぞれ当事者意識を持った人々がいろんな方々と混じり合いながら、何か自分たちのこれからの生き方を創っていくことができる社会、それを求めていけばいいのだろうと思います。」

吉田「この当事者意識についてですが、会社で言うと『みんな社長の気持ちで仕事に取り組んでくれ』と言いたくなりますけれども、それを言えば社長の気持ちになるかというと違うと思うのです。この当事者意識を持つコミュニティや集団は、能動的に創れるものか、導けるものか、それは本当に自然発生的なものなのか、自然発生的に生まれた誰かが影響を与えて伝播していくものなのか、その辺りどのようにお感じでしょうか。」

小田切教授「非常に重要だと思います。当事者意識を持たない状況、これは他人事にしている状況です。英語で言うと“They say”。 私ではない誰かが言っていることです。一方で当事者意識を持つのが“I”です。“They say”から“I say”になるのが第一歩。これではまだ当事者意識は完結せず、“I”が“We”に変わるということです。TheyからIに、IからWeに変わる。この2段階の変化が必要だと考えています。

‘‘They‘‘から ‘‘I‘‘への展開、ここはいろんな手法があるのですが、一例をお伝えします。交流の鏡効果という言い方をしますが、地域外から来る人があたかも鏡のように地域の資源を反映したり発見したりする事を指します。農山漁村プロジェクトの中で、地域外の子どもたちが農山漁村地域へ1週間ほど留学をします。その過程で『おばあちゃんこの料理美味しいね』という子どもの一言で、おばあちゃんがみるみる元気になって、そこで農村レストランを開業した、という事例もあります。まさに子どもたちがピカピカに光る鏡を持っていて、おばあちゃんにこの料理ってすごいよと、反映して投げかけているのだと思います。

‘‘I‘‘が‘‘We‘‘になる段階は研究途中ではありますが、『俺はやるぞ!』と立ち上がったとしても、仲間がいなかったら潰れちゃいますよね。誰かが立ち上がった時に、周りの人間がどうサポートするのか、周りの人間も動くような仕組みがあるのではないかと思っています。この辺りはもう少し研究して、解明し、定式化できたらいいなと思っています。」

吉田「ふるさと納税もそうですし、この関係人口創出も、やっぱり本丸の部分は”I“もしくは”We”である、自分たちで考えることが重要ですね。外部のノウハウや頭脳も取り入れ、外部の人ともいい関係を創る努力もするけれども、考えて決めるのは自分たちだという意思は、全国の自治体さんにも持っていただきたいなと強く思います。」

小田切教授「必要な部分については外の手を借りながら、しかし最終的に決めるのは自分なのだ。これを両立させるネオ内発的発展という考え方、おそらくそれが一番求められているのだと思います。」

社会の多様性と女性活躍

吉田「先生に伺う最後のテーマです。人口減少の先には日本の消滅というイメージがあって、やはり出生率の低下や、女性が活躍できる社会という切り口が強かったのも事実だと思っています。私自身が男性ですので女性の気持ちにどこまでなれるかという課題もあるのですが、地方や地域の集落、農山村が、女性にとってどういう環境であり、またこれからはどういう可能性を持っているのかというところも、ご示唆いただければと思います。」

小田切教授「東京一極集中という言い方がありますが、ご存知のように東京一極集中のメインプレヤーは女性ですよね。男性が東京に流入するという動きをもちろんあるのですが、それより速いスピードで女性が流入しています。地方は女性にとって、自己実現をするような仕事場がないと言われたりもします。実際にはそんなことはなくて、地方創生の中で、あるいは集落の活性化の中で、若い女性が活躍する場面っていうのが次から次へ出てきていると思います。そういう意味ではですね、そういった仕事を地方に増やしていくっていうのが重要で、そうすることによって女性の東京一極集中が徐々に緩和されていくのではないかと思います。」

吉田「私の話になりますが、2021年に四国の右下木の会社という新しい法人を設立しました。この徳島県の県南は、非常に温暖な地域なので、森林は照葉樹が非常に多く、古くは室町とか江戸時代からこの照葉樹を原料にした薪とか炭、薪炭を関西の都市部に輸出することで栄えてきました。燃料革命以降急速に衰えてしまったのですが、地域資源活用の筆頭であり、かつこの地域の産業や文化も支えてきたものなので、林業の会社を立ち上げて炭や薪を作って売ろうという私 の新しいチャレンジです。一方で農山漁村という観点に立った時に、私がこの林業の会社を立ち上げる時には、そんな人気のない、みんながやめていった商売をなぜまたやるのかと疑問の声も頂きました。ところが、会社立ち上げてみると、集まってきたメンバーたちはほぼ移住者で、女性も含め、ありがたいことに都市部の大学や都市部の住民からこの林業の会社に入りたい、もしくは移住はできないけど定期的に行ってその間を働かせてくれという人とのつながりができました。森林関係人口と私たちは呼んでいますが、そんな方々が非常に多いのです。もう一度今その農山漁村が持っている資源をリフレームしてみると、この地方創生にも寄与する、関係人口や移住にも寄与する資源なのだなと感じるのです。一時は経済発展の中で、農村や漁村の価値が下がっていった時期があると思うのですけれども、これからの農村漁村が持つ価値や、何を価値として磨いていくべきかをお聞かせください。」

小田切教授「森林関係人口、おそらくこれは農業で言えば農的関係人口ということになるだろうし、そういう意味で、 農山漁村がそういう方々の関わり代になるということですよね。林業もそうですし、農業もそうですし、あるいは日々の生活課題もそうだと思います。そういう意味で、大きな可能性があると思います。それからもうちょっと大きな話をすれば、今ウクライナ戦争で様々な資源が高騰しています。その中で、例えばエネルギー、食料、水源、それからCO2吸収源の森林。この4つが 言ってみれば国際的な戦略物質で、戦争が始まる前はそこにグローバルマネーが入り込み、時々高騰していき、戦争が始まって緊迫していくという構図です。別の論理で逼迫しているわけですが、この国際的戦略物質は全てと言っていいぐらい農山漁村で生まれていますよね。食料、エネルギー、水、それからCO2吸収源。そういう意味では、 国内戦略地域、この地域がなくなってしまえば、都市さえもなくなってしまう可能性があります。もちろん都市が無くなれば農山村もなくなるのですが、そういう意味では、都市農村共生という考え方が必要になってきます。農山漁村の重要性が、再び浮彫になってきたと言えると思います。」

吉田「まだまだ“むら・むら格差”があると思いますが、女性にとっても輝ける集落、地域も増えてきているし、それはもう増やしていけるということですよね。」

小田切教授「そうだと思いますね。例えば地域運営組織というものがあります。小学校区単位で新しい組織、集落を広域化したような新しい組織を創ったりします。隣の高知県では、集落活動センターと呼んで、65の集落活動センターを有しています。集客活動センターの中では、6次産業の新しい商品開発をしたり、新しい流通にのせたり、様々な活動をしていますが、非常に多くの割合を女性が占めています。若い女性がそういう分野に入り込んでいる姿を見ると、地方は女性の働き場所がないと言われていたのは、ひょっとしたらもう昔の話ではないかとさえ思いますね。」

吉田「これは本当に全国の農山漁村の皆さんも、なんか時代遅れのものを持っているのではなく、ぐるっと回って最先端であり、今本当に重要性が増しているものを持っているのだという観点で、もう一度地域の資源を見ていただくといいなと思っております。その中で、私たちあわえも、地域づくりの一プレーヤーとして、そして全国の自治体の支援をする立場として、地方創生時代の公共の在り方や支援の仕方を常々模索し磨き続けて行きたいと思います。」

小田切教授「これは不思議な話なのですが 、農村とか地方創生の関係者は、人によっては企業を敵と見たり、なにか対抗意識があったりして、企業を巻き込むとか、企業に対して対応すること自体に対していい感じを持ってないという時代遅れな考え方が続いていたと思います。あわえのサテライトオフィスの誘致はそうしたなかで生まれています。つまり地域と企業を結びつけるという、地方部では得意でなかったことが、あわえの得意分野ではないでしょうか。そういう意味で、地域づくりの中での企業の必要性について、しっかりと発信していることを、あわえの社会的な役割としてもっと積極的に位置づけてもいいのではないかなと思います。同じように、私は、デュアルスクールの取り組みも貴重なものだと思います。サテライトオフィスができる、移住者が入る、しかし、学校教育の仕組みもそれに応じて何らの形で変わっていかないと、これが定着しないと思っていました。つまりサステナビリティがないと思っていましたが、それをサポートする仕組みを創られているということは時代を先取りしています。とても重要な取り組みです。」

デュアルスクールで美波町の小学校に来た児童が、授業でトンボに触れている様子。

吉田「ありがとうございます。私自身、東京で経営している時には、会社にとって地域や社会をビジネスの好機にするということにリアリティを持てませんでした。地方にサテライトオフィス自ら出して関わって初めて、会社とか法人というものは地域の一員として汗する部分があるのだと実感できるようになりました。それ以前は年商も小さく利益も小さな会社だから社会の中で必要とされていないという劣等感がありましたが、この小さな美波町に来たら私の経営しているように小さな会社でも頼られる面がありました。初めて法人という人格を認めてくれたという感覚がすごくありがたかったですね。ベンチャー企業って本当に都市集中していますが、むしろ地方に行くことにもちろんビジネスチャンス、これは社会の人口減少が進む最先端という意味でのマーケティングや、新商品開発の場所にもなりますけれども、どこか時に空虚になりがちな経営者にとって、自分がいることが社会の役に立っているっていうのを感じられるっていう意味では、地方って本当に素晴らしいなぁと思いまして、地域と法人、この関係をもう描き直すことって、地域にも社会にも、そしてベンチャーの社長にもいいのではないかという思いでサテライトオフィス誘致にも取り組んでいます。またデュアルスクールも町長とお話を当時した、二者択一じゃなくていいという考え方から生まれています。子どもで言うと、『転校して来い』になってしまうのですけれども、美波町で学べて良かったでもいいじゃないでしょうかと。今はふるさとって私の世代では、生まれながらに持っているものですが、これからは、多くの都市部出身者にとっては、ふるさとは創らないと存在しない時代です。デュアルスクールを通じて、美波町や全国の地域にふるさとを僕は創りました!という子どもたちが増えていくのは、これからの時代重要なことだと思っています。徳島発祥の制度ではありますが、来年以降結構全国で広がりそうな展開も見えていまして、都市から徳島だけではなくて、徳島の子が地方に行く。いつもは太平洋側にいますが、日本海側で学ぶという経験を子どもの時にできる。教科書では、新潟は豪雪地帯と書いてありますが、そこに行って現地で雪かきをしながら、2週間、1ヶ月と学ぶというのは全然リアリティが違うと思うので、そのデュアルスクールを社会教育インフラにしていきたいなと考えています。」

小田切教授「先ほど私、都市農村共生社会、都市があって農村がある、農村があって都市があると言いましたが、そんな新しい社会を考えると、都市も農山漁村も両方を体験している子どもたちってすごいですよね。」

吉田「ニュータイプですよね。私がそうなのですが、順番に都市と地方を経験した人は多いと思います。私は田舎生まれ、大学が神戸、でその後大阪。しかし、同時並行で田舎と都会を両方知っているのは、本当にニュータイプですよね。ともすれば、地方と都市もまた限られた財源の奪い合いをしているという観点に立つと、対立軸になりかねないところあるのですけど、僕は地方と都会両方大好きっていう子が増えると、対立軸になりようがないなと思いますので、先生のおっしゃるその都市と地方の共生ということを、一人の人間が自分の中でその共生性を持っている社会になっていけばいいなと思っています。本日は誠にありがとうございました。」

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