top of page
執筆者の写真株式会社あわえ

【特別対談】デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師 石山アンジュと語る|シェアリングと地域の未来


石山 アンジュ 様

地方創生や地域づくりにおいて無数の手段が錯綜する中、特定の商品や特定の事業者・自治体のためだけではなく、社会にとって役立つ情報を社会提言すべく、政治や教育など様々なお立場の方との対談をお届けします。

初代地方創生担当大臣 衆議院議員の石破 茂 様、明治大学の小田切 徳美教授との対談に続き、今回はシェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事されている石山 アンジュ 様との対談です。「シェア(共有)」の概念に親しみながら育ったミレニアル世代の石山 様に、シェアの価値、そしてその考え方を地域づくりにどう活かせるのかという観点でお話をお聞きし、これからの取り組みのヒントを見つけたいと思います。

シェアリングの原点

吉田「あわえは、地域活性化のお手伝いをしており、その一つに地方にベンチャー企業を呼ぶというサテライトオフィス誘致があります。これは人口減少で地域の担い手が不足しているところに、都市のベンチャー企業のエネルギーを誘致しているともいえます。まさにエネルギーのシェアリングであり、アンジュさんの提唱とも通じるものがあると思っています。人口減少を迎える地域や社会づくりにおいて『シェア』という考えの重要性について、アンジュさんとの対談でお伝えしたいと思います。はじめに、最近の活動についてお伺いできますでしょうか。」

石山 様「シェアリングを日本に普及させるという目的で、一般社団法人シェアリングエコノミー協会を2016年に立ち上げ、ルール形成や企業のビジネス支援、そして自治体と連携したシェアリングシティという自治体の課題をシェアリングエコノミーで解決するスキームをつくり、政府と一緒に推進してきました。個人がシェアリングを使って地域で暮らし・働くという選択肢がとれるように自治体と協働もしています。2023年時点では約113の自治体がシェアリングシティとして、シェアリングエコノミーを活用して地域課題を解決しています。また新たに、アンダー40の若い世代を中心とした官僚や弁護士、企業法務担当を対象に、ルールメイキングのスクール事業を手掛ける一般社団法人Publick Meets Innovationというシンクタンクを立ち上げ、政策提言活動もしています。実生活では、拡張家族という概念を広げるシェアハウスのコミュニティを運営しており、血縁によらない形での家族が全国で110人います。4年ほど前から大分県の豊後大野市と東京の二地域生活をしていて、大分では地域で使う水を山から引いたり、共同貯水タンクをみんなで掃除したり、大変ですけれど楽しく過ごしています。」

吉田「アンジュさんが、『シェア』という考え方を自分が実践するだけではなく、世の中に広げるところまでコミットされるようになった動機からお聞かせいただけますか。」

石山 様「一つ目は、私の実家がシェアハウスを経営していたことです。必ずしも血縁だけではない人と一緒に同じ屋根の下で暮らしながらも、いろんな人々の支えを借りて育つという、豊かな体験でした。二つ目は、3.11の東日本大震災の時、スーパーから物がなくなってしまう光景を目の当たりにして、従来型の企業のサービスを個人が消費し続けるという生活スタイルに違和感を持ったからです。私の育った環境では、何かあったらお米をくれる人がいたり、泊まらせてくれる人がいたり、そういう人とのつながりこそ、本当にかけがえのない資産であり豊かさだと思います。有事の時に助け合えるつながりや、日常生活におけるシェアリングがもっと身近にあったらいいなと思ったことも大きいです。最後は、新卒で入社したリクルートの経験から、企業・資本家と労働者という関係性に疑問を持つようになりました。学生個人の能力ではなく、景気の変動によって学生の就職できる人数が決まってしまう不可抗力など、企業の論理に個人の人生が左右されてしまうことに違和感を持ちました。個人と企業がフラットに仕事ができ、企業に勤める以外の働き方の選択ができる社会にならないのかと、以上3つの理由が重なり、レイチェル・ボッツマンの『シェア』という著書を読んで、私が実現したい世界観って『シェア』なんだ!と思ったことが今に繋がっています。」



持続可能な共生社会への転換

吉田「シェアリングと横文字になると、新しい概念で身構えてしまう人もいるかと思うのですが、アンジュさんのお話や原体験を聞いていると、日本のむしろ懐かしい世界観にも聞こえてきます。普及活動をされている中で、世の中のシェアリングに対する感覚や反応などをお聞かせください。」

石山 様「シェアリングエコノミーは世界的にも共通の定義はなく、日本の原風景であるお醤油の貸し借りも広義の意味ではシェアですね。一方で社会のデジタル化が進み、インターネットを介して個人と個人・企業等の間でモノ・場所・技能などを売買・貸し借りする等のモデルが新たな経済の形のあり方としてシェアリングエコノミーニューエコノミーが注目されるようになりました。シェアリングエコノミーが社会にもたらす価値というのは非常に多面的であり、持続可能な共生社会を実現するために必要だと考えています。今まで大量生産・大量消費によって日本経済は発展してきましたが、環境問題待ったなしの状況下では、そもそも新しいものを作らなくとも付加価値を生み出せるビジネスモデルとして、シェアリングエコノミーが果たす役割は大きいです。例えば、所有するより借りる、短期間利用するというライフスタイルが徐々に身近になってきていると思います。

大量生産・大量消費の経済成長の成功モデルによって、モノが個別化し、大家族から核家族になり、都心においては何でも低コストで手に入るようになりました。しかし、それが却って人とのつながりを希薄化してしまったとも言えます。お醤油の貸し借りのようなことが何においてもできればいいですが、都市で生活のあらゆるものを貸し借りするのは現実的に難しい。おすそ分け社会と資本主義社会の間にあるのが、シェアリングエコノミーだと思っています。例えば、ホテルの受付の人と友だちになることって、なかなかないと思うのですが、同じ5,000円の宿泊という消費行動を通じて民泊を利用してみる。するとオーナーさんとFacebookで友だちになって、今後もつながりが生まれていく。消費行動ではあるのですが、資本主義の中でも、人とのつながりを生み出していくのがシェアリングエコノミーの役割として大きく、少しずつですが社会に浸透してきていると思います。」

吉田「シェアリングエコノミーもそうですし、弊社が全国展開しようと進めている多地域就学制度『デュアルスクール』も、子どものエネルギーのシェアリングと言えると思います。こうした社会変革を加速させるには障壁も多く、どうすれば良いかと、私も課題感を持っているところです。一般社団法人Public Meets Innovationの立ち上げは、私が感じているような課題感も背景にあるのでしょうか。」

石山 様「そうですね。吉田さんがデュアルスクールの全国展開に障壁を感じられているように、私もシェアリングエコノミーのルール形成に携わる中で、日本においては障壁があると思っています。一つ目は、シルバー民主主義の壁です。やはり今後は若手が生み出すイノベーションや新しいものを応援し推進する人たちが、もっと公共セクターの中に必要だと思っています。若手と政治家の相互理解を促していくためにコミュニケーションをとる役割や機能が必要だと思って立ち上げました。二つ目は、私は官僚でも弁護士でもありませんが、いざルールメイキングの領域に関わろうとした際に、何をどうしたらいいのかが体系化されていないと思いました。活動を通じて、誰もがルールの作り手にも、ルールを変えていける側にもなれるような武器を配りたいです。

さらにはシンクタンクとして政策提言活動をしています。やはり政策においても、今までの高度経済成長期の成功モデルを引きずり、課題が出てきたら解決するという流れが多いと感じています。そうではなく、例えば2050年の未来ビジョンを描いた上で、今の政策の見直しをゼロベースで考える、バックキャスティングのやり方にシフトしていきたいですね。」

地方にこそシェアリングの力を

*「関係人口とシェアリング」シェアリングエコノミー協会様提供

吉田「人口減少社会において、『シェア』がいかに重要な考え方かわかりました。特に人口減少著しい地方にこそ重要ですね。アンジュさんが関わられた地方活性化や地域づくりにおいて、シェアリングが寄与するポイントをお聞かせください。」

石山 様「どの自治体もいろいろな課題がありますが、やはり人口減少が大きな課題だと思います。人口が減少すると、自治体にとって大変なのは財源の確保です。財源の確保が厳しくなるということは、これまでと同じ公共サービスを維持することが難しくなります。そうすると、その地域の公共サービス水準では住めなくなる人がでてきて、地域の維持が難しくなる可能性もあります。民間の視点から考えても、基本的に資本主義はお客様がいないと成り立ちません。お客様がいないとその地域のサービス提供から撤退する、そういう現象が人口減少地域においてはより加速化していくと思います。その中で、市民同士で自分たちのニーズを満たし合えるのが、シェアリングが果たす役割だと思います。例えば1日10本走っていたバスが、1本に減ってしまった。おばあちゃんが病院に行きたいのにすぐには行けない。そんな時、たまたま隣町に行く市民同士が乗合をして、公共交通の問題を解決するというやり方もあるかもしれません。人口減少時代における公助を共助という仕組みで補完するという意味で、すごく大きな役割です。

関係人口についても同様です。人口減少地域において移住施策というのが今までの一丁目一番地だったと思います。しかし、各自治体が移住施策を頑張るほど、マクロで言えば人口の奪い合いになります。これからの経済や地域の発展のためには、人口を奪い合うのではなく人口のシェアリングという観点で関係人口を見直すべきだと思います。関係人口となるとハードルとなるのは滞在や移動費のコストですが、それもシェアリングを通じて抑えられたり、さらには人とのつながりを生み出したり、関係人口創出との相性も良いと思います。」

吉田「今はリモートワークも普及し、場所を選ばず働けるようになっていますし、逆に地方にいても都市の仕事もできます。今まではなんとなく、都市-地方を行き来するのが関係人口という見られ方でしたが、その関係にももっと幅がでてきていますよね。」

石山 様「地方にいながら様々な仕事ができる選択肢がデジタルの力で広がりました。働き方という観点でも自治体と協働し、シェアワーカー育成プロジェクトを進めています。共助が先細りしている子育てや介護によりフルタイムで働けない方が、地方にいながら別の仕事ができるきっかけをつくったり、高齢者が孤立している地域をシェアリングエコノミーでつないだり、今まで数の理論の下に提供されていたサービスではなく、別の価値創造の可能性があると思います。」

吉田「自分の持っている能力やスキルのシェアリングで生きることができる時代ですよね。ますます場所にとらわれない働き方ができるようになると、他の場所へ行く意味づけが重要になってきますね。」

石山 様「豊かさや地方に求めている価値観が、少しずつ変わってきているように思います。以前は、不便な地域にはまずは鉄道や飛行機を通し、テーマパークなど、何か新しいものを作ってそこに人を呼ぶという取り組みが中心だったように思います。しかし、自分も含めて今は、地方にわざわざ行きたいのは便利さや新しいものを目的としているのではなく、すでにそこにあるコミュニティや人に会いに行くことに価値を感じています。地方は余白も多いので、それだけ自分が関われる範囲も大きい。例えば東京のマンションではポスターを貼るのに画びょう一つ刺すのも躊躇しますが、私が大分で借りている家はペンキ塗り放題ですし、リノベーション自由です。自分の暮らしを自分でつくれるということは、自分が手を加えられる余白があることだと思います。私の大分の家は大分空港から約2時間30分もかかる場所にありますが、大体月に2往復しています。複数の地域を往復しながら生活できるのは、デジタルのおかげです。移動中にネット環境さえあれば仕事はできるので、交通の利便性ってあまり関係なくなってきています。」

吉田「あわえが徳島県と協働で進めるデュアルスクールは、都市部のご家族が一定期間徳島県に来て学校に通える制度ですが、皆さんが求めているのってピカピカの教育施設なんかじゃないです。その地域ならではの子どもたちの遊び方や、自然環境、不便だからこその創意工夫する姿勢、いろんな可能性を地方に見出してくれて体験したいと来てくれています。わざわざ費用をかけて。私たちは全国の市町村への企業誘致を支援しておりますが、おしゃれなコワーキングスペースはないよりあった方がいいかもしれないですけど、経営者の意思決定はそこではないですよね。地域にいるあのおっちゃんと飲みたい!とか、あの人に会いたい、あのコミュニティの空気を吸いたいという人とのつながりが大きいと思います。おしゃれなコワーキングや空港からのイージーアクセスじゃないですね。」



*「地方に求めるものの変化」石山 アンジュ 様講演資料より

石山 様「まさにそうだと思います。地方に求めるものが変わってきている社会背景として、豊かさの価値観が変化しているのではないでしょうか。昔は、基本的に経済成長が前提で、ふんだんな資源を使って大量生産・大量消費をして、一生懸命稼いで、大企業に勤めることが自己の安定や安心につながっていたと思います。そのためには利己的な動機や競争が必要であり、お金を得ることが重要でした。しかし、今はコロナや災害、戦争など何が起こるか分からない、社会変化の激しい時代です。そのような不安定な社会と共存していくためには、モノをいかに所有しているかよりも、有事の際に分かち合えることや有限の資源の中で付加価値を生み出していくかということに価値観がシフトしていると思います。特に、帰属意識の変化が一番大きいのではないでしょうか。今の時代、自己の安定には大きな企業に属するよりも、複数の選択肢を同時に持つことが安心・安定につながっていくと思います。AがダメでもBがある。BがダメでもCがある。それを普段の暮らしや仕事、人とのつながりでも同時に持っていることが、豊かさのスタンダードになっていくのだと思います。1000万一生懸命貯金しても、その1000万の価値が将来どうなるかはわからない。金融的な資本は個人でコントロールできません。今後は人的関係という資本に重きが置かれていくのではないでしょうか。」

吉田「こちらのスライドの変化、まさに実感しましたね。私自身、東京で20年程前にITベンチャーを設立して東京だけで頑張っていた時があります。その時の自分を振り返ると、東京で生きている時の自分って、社会とのつながりをあまり持てていないです。職場と家庭の二つくらいです。でも、地方に行くと社会とのつながりが多様に存在しています。私はよく”紐帯”と表現するのですが、地方における社会との紐帯(つながり)の多さって時には面倒くさい時もありますが、自分自身の座標がすごく安定します。極論言うと一つ二つ切れたって、自分自身はぐらつかない。じゃあその紐帯をどこに飛び込めば得られるかというと、買えるものではない、利他的な”シェア”の動機からの行動で得られるのでしょうね。それが、地域維持の担い手が不足している地域とシェアリングの相性の良さにもつながっているのだと思います。」

幸せな人生に結びつく

吉田「最後に、アンジュさんのようにシェアライフやってみたいな~と思うけどなかなか一歩踏み出せずにいる人も多いと思います。アンジュさんだからできる、アンジュさんは特別だからと、言う人もいらっしゃるかなと。何も特別なものがなくとも、実現できるコツやヒントがあれば教えてください。」

石山 様「私は本当にただ単純にさみしがりやなんです。一人でごはんを食べるよりも、誰かとごはんを食べた方が嬉しいし、高いお店に行くよりもみんなで鍋をつつく方が好きです。自分が楽しいと思った方を選んでいたらシェアリングになっていて、その延長にあるのが今の活動です。私は、幸せは人とのつながりからしか生まれないと思っているので、自分の幸せを考えた時に自分と人との関わり方、つながりにもっと目を向けるとシェアリングしたくなってくるのではないかと思います。今までは仕事が忙しくて、仕事=自分の人生という方も多かったと思いますが、時代が変わって生活や仕事のあり方、時間の使い方も含めて自分の生き方を見つめ直すとヒントがあるのではないでしょうか。自分にとっての豊かさとは何なのかと考えた時に、一人ではなく誰かと何かをすることに豊かさを感じる人は少なくないと思います。

今の社会情勢からすると、物価の高騰はこれからも続くでしょうし、災害や様々なリスクは常に隣り合わせです。その状況を嘆くのではなく、いかにその状況の中で暮らしや働き方をちょっと変えていく、自分にとって豊かになる選択肢って何かということに目を向けていただきたいです。それが副業かもしれないし、畑をしながら地方で暮らすことかもしれません。」



吉田「ある面、地方にとっては地域の社会変化や人とのつながりの変化につながるお話だと思います。この契機を自治体側がチャンスだと捉えて、選ばれる地域になるにはどういう心構えや変化をしていけばよいか、アドバイスがあればありがたいです。」

石山 様「自治体は公共サービスを通じて住民や住民の生活を守ってきたと思います。これからは、住民が自分たちの地域をつくることをサポートする側に変わっていくことが大事だと思います。今までは行政あるいは企業が主導してサービスをつくり、住民というのはそのサービスを受けるお客様という感覚だったと思います。そうではなく、住民自身が持続可能な社会モデルを創る主役になる、地域のつくり方をデザインしていく側になってもらえたら嬉しいなと思います。例えば観光の分野であれば、民泊を推進することは、住民が観光資源となりおもてなしをすることであり、それがまちの資源になると考えることもできます。そのように、住民同士が住民に還元できることをシェアしていくことで、企業や行政に全てを頼らなくても循環していくまちになっていくことが、自治体のサポートで実現していけたらと思います。

自治体の方って、政治家もそうかもしれませんが、正しいものを自分たちが定義しないといけないという思いがちょっと強すぎると感じています。今の時代、万人にとって正しいものを定義するってとても難しいことだと思います。だからこそ、正しいものを提示する側ではなく、住民側が求めることをサポートするような余白がもっとあっていいのではないかと思います。」

石山様、ありがとうございました。

あわえへの取材・問い合わせはこちら

Comments


bottom of page